竹に漆を使うと表現が広がったり、強度をもたせたりすることができます。
具体的には
- 籠の仕上げ(網代バッグや花籠など)
- アート系の作品(長倉健一さん、藤沼昇さんなど多くの作家の方)
- 花籠の「おとし」の制作
などなど、竹+漆には多くの可能性があります。
作る作品により様々な漆や道具を使うのですが、この記事では花籠を作るときに使う漆と道具をとおして、竹工芸で漆を扱うための方法と注意点を書いています。
内容をまとめると
- 漆は2年で使える分だけ購入して、使わないときは冷蔵庫で保管
- 漆は温度25℃前後、湿度70%前後の漆室で乾かす
- 漆を扱うときは絶対に肌に付かないようにして、漆にカブれたときにはすぐに病院へ
このような、漆を扱うときの基本的なことを書いています。
竹工芸に使用する漆や漆の道具と購入
花籠に艶を出したり、「おとし」を製作するために漆を使います。「おとし」は花をいける水入れのことです。
竹は表皮があると漆を弾きますので、ナイフや銑(せん)などを使って削り取っておきます(竹磨き)。
漆の種類と漆の道具
使用する漆は
- 生漆 花籠の「おとし」の下地
- 黒呂漆 「おとし」の上塗り・黒いひごの仕上げ
- 梨子地漆 籠本体の塗り(色が薄いので使いやすい)
この他に、籠の色によっては上朱合漆も使うことがあります。
道具や溶剤
- 純テレピン油 漆を薄める溶剤
- テレピン油 漆がついた用具の洗浄用。強烈な臭い
- 地の粉 おとし製作用
- 漆刷毛
チョイ塗りくん8分を使っています - 塗料刷毛
- ヘラ
- ブラシ(籠をブラッシングする)
- 手袋や合羽等の防護具
- 有機溶剤用防毒マスク(お好みで)
- など
注意するのは溶剤です。
漆の溶剤は種類が多くありますが、純テレピンを使えば大丈夫かと思われます。最近ではもっと匂いのしない溶剤がありますのでお好みで購入されてください。(DIYうるし部-低臭溶剤)
純テレピンではない「テレピン」は値段は安いのですが、シンナーのような有機溶剤の臭いが酷いので室内で使うのは向いていないかと思います。私は刷毛や容器の洗浄用で使っています。
テレピンなどの有機溶剤の臭いに弱い方は、臭いを防ぐための防毒マスクを使用されてください。私は、マスク本体の「TW01SC」に「TS/OV 有機ガス用フィルター」を付けて使用しています。
道具に書いている「ブラシ」は、漆を籠に塗ったあと、籠をブラッシングするのに使います。これは、籠の編組部分に漆が残りすぎているとキラキラとなってしまうからです。そのキラキラを表現として使う方もありますが、私はたいていの場合ブラッシングしてしまいます。ご自身で試されてみてください。
「おとし」の製作については、中臣一さんの記事、おとし(筒)の作り方が詳しいです。漆や道具についても書いてあります。
漆の通販
私は福井の箕輪漆行さんや京都の堤淺吉漆店さんで購入していますが、他にも沢山良い漆屋さんがあると思いますので、ご自身が使う漆が販売(google検索)されているところでまとめて購入されると良いです。
また、作りたい作品と同様なものを作られている作家の方に聞かれて、参考にされるのも良いかと思います。
※漆の代わりにカシューなどを使う選択もあります。※ホムセン等で売っている「新うるし」などは、漆ではありませんのでご注意ください。
漆の乾かし方
漆を乾かすには、漆が乾く環境を作ってあげる必要があります。
木製でもダンボール製でも良いので箱(漆室・漆風呂といいます)を作り、その中で乾かすようにされてください。そうすることで、塵やホコリ防止にもなります。
漆が乾く環境
漆室の中の温度と湿度、時間の目安は
- 温度20℃~30℃、湿度55%~80%
- 12時間~3日間
- (恐らく)乾燥中、漆室内の空気は動かさないほうが良い
この目安は、できるだけ早く、手に持てる程度に乾くという環境です。
(漆は漆の木の樹液で自然のものなので、ある程度の温度とある程度の湿度があれば乾きます。漆の木がある屋外で厳密は望めませんので)。
これで1日~3日ほどで次の工程に入れるくらいに乾きますが、漆にも癖というか個性があって、乾きが早いもの、遅いものがあります。
これは、(中国の国内の)産地によって違い、また、購入後の漆の保管環境でも変わるようです。長く保管されたものは乾きにくかったり乾かない漆もあると聞きます(後述します)。一度に大量に購入されないようにしてください。
※余談ですが、初めておとしを作ったときは、漆を塗った竹筒をダンボール箱に入れて、日光で温めて乾かしていました。条件が合えばこれでも乾いてしまいます。
漆室の湿度と縮みに注意
温度が一定であれば、湿度75%と高湿度にすると乾きは早くなりますが、漆の表面ばかりが早く乾いてシワができてしまうという「縮み」が起こります。縮みは表面だけ乾いて内側は乾いていないとのことなので、削って塗り直しが必要になります。
漆を乾かすときには、湿度60%を目安に時間を掛けて乾かされてください。また、漆をできるだけ薄く塗り乾かし、重ね塗りをされると縮みの防止に繋がります。
漆の乾燥は、下地はもちろんですが、とくに表面の仕上げ塗りでは、高湿度で乾かすよりも、湿度を60%ほどにして、ゆっくりと乾かしたほうが縮みが防げますし漆の表面がきれいになります。
このことは金継ぎにも当てはまりますので、覚えて置かれると良いかと思います
- 漆を高湿度で乾かすのは縮みの原因
- 厚く塗るのも縮みの原因
- 漆は薄く塗り、時間を掛けて乾かすと仕上がりが良い
私も試行錯誤しつつ勉強中なのですが、漆を扱うには漆芸の知識が必要ですので、余裕があれば漆芸に関わる本を読まれると良いです。
漆室(漆風呂)について
漆を乾かす箱のことを、漆室(うるしむろ)または、漆風呂(うるしぶろ)と言います。
箱の中には
- ヒーター 温度を上げる熱源
- サーモスタット 温度を一定に保つ
- 温湿度計 良い環境か確かめるため
- 濡れタオル 加湿のため
これらを入れて、漆が乾く要件を満たすようにします。
この写真はサーモスタット(am2-xb1)と100wの保温ランプです。
この2つで漆室内の温度を一定に保つようにしています。また、湿度を上げるために磁器の器に少量の水とカーゼを入れて、保温球との距離を調整しながら湿度が保たれるようにしています。
漆室は、段ボール箱でも衣装ケースでも良いかと思いますが、熱源となるヒーターと、乾かす作品が近すぎずに入るくらいの大きさがあることが理想です。
冬の気温が低い時期には漆室の板が薄いと外の気温に左右されやすくなりますので、漆室に毛布をかけたり、外側をスタイロフォームなどで断熱すると一定の温度に保ちやすくなります。作品を乾かすときは、時々温湿度計を見て、漆室内が目的の環境になっているか確かめられたほうが良いです。
漆を使う作品をこれからも作られる場合は、木製の漆室を用意されることをおすすめします。
古い茶棚など、漆室として使えるものは沢山あります。要は、ある程度の大きさと、密閉できる環境さえあればいいという感じです。多量に作られる方(例えば大分のオンセさんなど)の工房には押入れくらいの大きな漆室があります。
漆や漆刷毛を保管する
漆や漆刷毛の保管には少し注意することがあります。
漆と漆刷毛の保管場所
漆や漆刷毛の保管は
- 漆はチューブに入ったままで良いので冷暗所(冷蔵庫)に保管
- 漆刷毛は丁寧に漆を洗ったあと、不揮発性の油を少し付けてラップに包んで冷蔵庫か冷凍庫に保管
チューブ入り漆は2年ほどは大丈夫のようです。うちでは大丈夫でした。
漆刷毛は、植物油を少しだけつけて冷蔵庫に保管しています。保管前には刷毛から漆をできる限り洗い出しておかないと、保管中に漆で固まってしまい、毛を切り出さなければいけなくなります。
(漆刷毛の毛の切り出しにはまた技術を学ばなければいけません…)
長く保管すると乾かない漆になる可能性
うるしはチューブで3年4年と長く保管すると、チューブの中で漆の成分が分離することがあります。
分離した漆は乾く部分と乾かない部分に別れ、買ったばかりの時ようにチューブから出したのでは乾かない恐れがあります。
その場合、漆をチューブより全て取り出して混ぜてあげると乾く可能性があります。ただし、状態によっては「乾かない漆」になっている場合があるようです。
また、夏などの高温の中で長く保管した漆も「乾かない漆」となるようです。漆の成分が変質して乾かなくなると漆芸の方が話されていました。
漆を買うときには、1、2年で使い切れる量を買い、使った後は冷暗所で保管されるようにしてください。
漆かぶれについて
漆かぶれと対処方法
人により症状の有無・強さが違ってきますが、漆が皮膚につくと起こるのが「漆かぶれ」です。漆に含まれる成分が肌に付き「アレルギー性接触皮膚炎」が起こります。
症状は漆に触れて1日ほど経った頃よりはじまり、非常に強いかゆみや発疹ができます。痒みが強いために掻くのですが、掻いてしまうと症状源となる漆の成分が広がり更にひどくなる可能性があります。
漆かぶれになったら、すぐに皮膚科のある病院に行き、軽症の場合は部位(手や顔)により強さの違うステロイド軟膏や飲み薬が処方されると考えられます。1週間ほど薬の使用法に注意しながら治療しましょう。
私は漆に弱い方なので不注意で漆に触れてしまうと、指が腫れたり、瞼が腫れたりしますので厳重に注意しています。
なお、ネットの情報に左右されず、素直に病院に行ったほうが治りがはやいです。
漆かぶれを防ぐには
漆かぶれを防ぐには、漆に触れない、漆を皮膚につけない、(極めて弱い人は)漆に近づかない
これが基本です。病院に行くと、「かぶれを防ぐには、漆に触れないようにしてください」と言われてしまいます。当然のことですがかぶれを防ぐための一番の基本です。
それでも、竹には漆を使いたいので、漆に弱い私が漆を扱うときの服装を書いておきます。
- 長袖作業着+長袖アンダー、長ズボン
- フード付き雨合羽
- ゴム手袋は2重
- 腕抜き(手首を守る)
- 捨てる前提の布(タオル)を首に巻く
- 防護メガネ
- マスク・防毒マスク(有機溶剤用)
かなり厳重です。
私の場合は、漆に直接触れなければカブれませんので、ブラッシングのときに漆の飛沫が飛んでも防げるようにしています。とくに顔には絶対に漆が付かないようにしなければいけません。まぶたが腫れた経験があり、1週間ほど眼帯をつけたことがあります。
皆様も、カブれないようにお気をつけください。
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