九州国立博物館で行われている特別展『京都・醍醐寺 ―真言密教の宇宙―』
前期展示の最終日となった平成31年2月24日、前期で展示が終わるものの中にどうしても見ておきたいものがありましたので、休日で人が多いことはわかっていましたが行ってきました。
素晴らしい展示の数々で圧倒されてしまいましたので、その模様を一部だけ書いていきます。
※掲載している写真のうち、右下に九州国立博物館とあるものは、すべて提供して頂いたものです(館内は撮影禁止です)。
※なお、説明に思い違いがあるかもしれませんので参考までに…
金銅輪宝羯磨文戒体箱
「金銅輪宝羯磨文戒体箱」
13世紀、鎌倉時代に作られた箱で、密教の儀式の際の作法などを収めた戒体箱です(左から2番目)。重要文化財に指定されています。写真では小さくて見えませんが、実際に見ると惜しみのない手間がかけられた、とても美しい箱でした。
この箱の名前は
金銅 輪宝 羯磨文 戒体箱
こんどう りんぽう かつまもん かいたいばこ
なのですが、それぞれを分けてみると
- 金銅(こんどう)
銅に金メッキや金箔を押したもの - 輪宝(りんぽう)
密教の仏具(輪宝(奈良博)) - 羯磨(かつま)
密教の仏具(羯磨(奈良博)) - 文(もん)
※(恐らく)文様のことです - 戒体箱(かいたいばこ)
書などを収めた箱
この名の通り、「輪宝と羯磨の文様で飾られた戒体箱」ということになります。
名前から考えると、木箱に金銅板を貼り付けたものと思われます。その上に、正面と背面に3つ、側面にひとつづつ、合計8つのの羯磨(かつま)、上部には輪宝を形どられた金具で飾られています。
どの文様も金工の緻密な作業によって細部まで作りこまれていて、これら文様の細工ひとつとっても非常に美しく、どこを見ても心にすっと入ってくるような感じを受けます。
このようなような美しい戒体箱を使う儀式、大変な想いが込められていると想像できます。
このブログのテーマである「竹」をはじめとした工芸が好きな私にとって、この箱を見るだけでも、充分に来た価値はあったと感じる展示でした。
絵因果経 (えいんがきょう)
絵因果経
釈迦が悟りを開くまでの伝記なのですが、描かれている人々がとてもコミカルでした。
私がいちばん面白いと感じたのは、釈迦が食べることをせずにやせ細っていくのですが、そのやせた釈迦を見た人がショックでバタンとうつ伏せで倒れている人の絵です。
まさに「倒れてる!」という絵で、もちろん下にある漢文を受けての絵なのでしょうが、もっと大切な場面はなかったのかな⁈という感じでした。
私はこのような絵図を見るのが大好きです。例えば、前回の特別展「オークラコレクション」の時に4階で行われていた伊能忠敬展での絵図には、測量中に木の麓でだら~っと休んでる人が描かれていたりしました。
しっかりとした人々よりも、その時々を生きている市井(しせい)の人々の本当の様子が描かれているような気がして楽しくなります。
展示は前期と後期で分かれていますが、どちらも見ごたえがあるものなので、ぜひ見られてください。人が多いと確実に並びますが、見逃す手はありません。
五大明王像と五大尊像
五大明王とは
- 不動明王
- 降三世(ごうざんぜ)明王
- 軍荼利(ぐんだり)明王
- 大威徳(だいいとく)明王
- 金剛夜叉(こんごうやしゃ)明王
これら、五明王のことです。
展示されていた五大明王像の最大の特徴は……みんな美脚!&目が太目のアーモンド型というところでしょうか。
アーモンド形の目は飛鳥時代の仏師、止利仏師(とりぶっし)の代表的な目の形ですが、10世紀、平安時代に作られたこの五大明王像も、明王に見られる特徴的な大きな目でアーモンド形にも見える目をされていました。明王らしい迫力があります。
手も足もほっそりしていて素敵です。なお、隆三世明王ですので、当然、左足で踏みつけられています。
こちらは、大威徳明王なのですが、なぜか水牛が立っていました。そして、この水牛がとてもかわいらしいくて、仔牛のような微笑ましい感じさえ受けてしまいます。目が丸く正面を向いていて優しい印象を受けるのです。
私がこれまで見たことのある大威徳明王と水牛はそれぞれに威圧的なものを感じていたのですが、醍醐寺の大威徳明王像はどこか優しささえも感じます。
どのような経緯でこのような印象を受ける像が作られたのか知りたいところです。
ちなみに、その隣の展示である「五大尊像」の大威徳明王さんの水牛は座っていました(左端)。五大明王像と五大尊像が並んで展示されていて、見比べるのにちょうどいい感じでよかったです。
五大尊像では着衣部分に截金(きりかね)で文様が施されていて、その緻密な文様が美しく浮かび上がっていました。
截金(きりかね)とは、金箔を細く切った線で文様を表す工芸です。日本の仏教美術ではよくつかわれていて、現代では京都迎賓館の舞台扉に使われています。
截金での文様は、弥勒曼荼羅図やほかの展示でも見ることができました。
不動堂明王坐像 快慶作
快慶作の「不動明王座像」です。
不動明王らしい堂々としたいでたち。ぎろりとした目は左手にある羂索(けんさく)を見られているのでしょうか。
羂索は、人々を救うために持たれている密教の仏具です。
快慶といえば、平成31年のGW、つまり平成から次の時代へ移り変わるまさにその時に、九博で特別展が開催されます。
- 特別展「京都 大法恩寺 快慶・定慶のみほとけ」
- 会期:2019年4月23日(火)〜 6月16日(日)
- web 公式サイト
慶派の仏師である快慶、定慶、行快の仏像がそろって展示されるという機会、絶対に行っておきたいところですね。
扇面散図屏風 俵屋宗達
俵屋宗達による扇子の絵を散らした屏風です。
扇子絵はさまざまな物語の絵図が使われていて、高位にある人がなにやら物思いにふけるように遠くを見つめていたり、右側、右上の扇子絵はもしかしたら鵜飼の様子を現した絵なのでしょうか。
どれも、想像すると面白い絵でしたが、何のことかわからない絵もあります。
この屏風は3月10日までの展示で、音声ガイドでも触れられていますのでぜひご覧ください。
薬師如来
薬師如来とその両脇の仏像です。
薬師如来さんは、ゆったりと座られ、瞑想をされている感じでした。
私は昨秋に新薬師寺の薬師如来を見てきましたが、新薬師寺の薬師如来さんは目が半開き以上は開いていたよう記憶しています(確認したところやはり目が開き気味でした)。醍醐寺の薬師如来は、ほとんど目が閉じている薬師如来さんで、お顔がどこか四角っぽい感じです。
それに、右手もずいぶん違います。新薬師寺のほうは奈良の大仏と同じ施無畏(せむい)っぽい感じですが、醍醐寺の薬師如来は説法印っぽい感じです。詳しく知りたいところのひとつでした。
光背についてなどは、音声ガイドで、みうらじゅんさんと、いとうせいこうさんが語られていますので、ぜひそちらで聞かれてください。
お二人の仏像の見方も知ることができて楽しいです。
九博の展示の好きなところ
今回の特別展もとても素晴らしいもので、とくに工芸品の展示ではいつも美しい展示をみられるのですきです。
また、
九国博の特別展でよくみかける、このような掲示は、普段の生活でなじみのない事柄をわかり易く説明してあって好きです。
今回、前期展示をみて、醍醐寺に興味を持ちましたので、後期展示に行く機会があれば、図録を購入してみようかと考えています。
「京都・醍醐寺 ―真言密教の宇宙―」
会期 平成31年1月29日から3月24日(日)
関連記事 「オークラコレクション」を九州国立博物館で見てきました
太宰府散策
帰宅する前に、大宰府政庁跡まで散策してきました。
もちろん、先日放送されたブラタモリの影響です。
タモリさんは、奥に見える石碑(?)のところで撮影されていましたね。
太宰府天満宮参道の明太子屋さんには、富田靖子さんも出演されている「めんたいぴりり」の立て看板がありました。
ドラマ版も映画版も面白いのでお勧めです。とくに、ドラマ版では富田靖子さんの歌声をアイドル時代以来、数十年ぶりに聞くことができます。
梅ヶ枝餅は3個も食べるとお昼ごはんが食べられなくなるので注意です。
余談ですが…
余談ですが、いくつか個人的なことを書いておきます。
- 新しい車になって初めての遠出でした。うちから往復約160kmのドライブ、いい天気でよかったです。
- 九国博は私が工芸の道に入ったきっかけとなる特別展「工芸のいま 伝統と創造」をみた思い出の地です。師の作品との出会いの場でもあります。
- 工芸は「使える」ことが前提ではありますが、美術工芸のほうに興味があります。そういうこともあり、現在、通信で某美大の社会人学生をしています。
- 九州国立博物館の略は「九博」「九国博」のどちらがいいのか。ギャラリーの方が九国博と話されていたので九国博としています。
前回のオークラコレクションに続き、再び特別展に行けました。次回以降も行けることを願いつつ……。
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